産学連携研究から次代へ向けた健康住宅の創出へ

積水ハウス株式会社

住宅メーカーによる健康住宅開発の取り組みは続く

 積水ハウスは、今回のWACo参画に先立つ2007年から千葉大学との共同研究で健康を守る住宅の開発に取り組んできました。

 その当時は住宅メーカー7社が参加して、千葉大学・柏の葉キャンパス内に化学物質発散量を抑えた建材による各社ごとの実験棟を建築し、室内のVOC(揮発性有機化合物)濃度などを測定しつつ、被験者に短期間滞在していただき、快適さの検証も実施しました。

 そのなかで、当社の実験棟は、参加住宅メーカーの中で唯一ケミレス基準※1のVOC濃度をクリアして、評価を得ることができました。そして当社は2011年に、このプロジェクトでの経験から、ホルムアルデヒドなどの5つの化学物質について厚生労働省の定める室内濃度指針値の1/2以下をクリアした空気環境配慮仕様の家を生み出すことができました。

 こうした化学物質を極力低減した住宅開発への継続的な研究や取り組みを重ね、2017年からは「寄附講座」というかたちで千葉大学にバックアップいただき研究をはじめさせていただきました。

 こうした千葉大学との共同研究等の延長として、同大学予防医学センター長の森千里教授から、「WACo: Well Active Community」への参加のお誘いをいただきました。

 このWACoは、予防医学にもとづく健康で活動的なコミュニティの創出を目的とした産学連携によるコンソーシアムで、長年にわたって当社と千葉大学で取り組んできた空気環境配慮仕様の家の研究を継続・発展させられるフィールドがそこにあるだろうと判断し、参加させていただくことにしました。

 WACo参画後の寄附講座では、被験者の方々に空気環境配慮仕様の家と一般的な在来工法の家にそれぞれに短期滞在していただき、シックハウス症候群のリスクや低化学物質空間における健康増進効果の確認、さらには住む人の活動や感情にどのような変化が生じるかの検証と研究を行い、空気環境配慮による健康効果に関する成果を得ることができました※2※3

 2022年からは寄附講座の第二期がスタートし、「環境改善型予防医学に基づく、ゼロ次予防住宅の創造研究」をテーマに、住環境・生活スタイルと健康に関する疫学調査の実施をはじめ、さらなる可能性の追求に取り組んでいます。

 この第二期の寄附講座では、空気環境配慮仕様の家の研究の基軸だった「室内空気質の向上」を中心に置きつつ、「住環境・生活スタイルと健康」という観点も加えての健康効果の検証を併せて実施し、ゼロ次予防住宅(健康づくりを助ける住環境)の実現という新たなウェルビーイング※4につながる創造に取り組んでいます。

 具体的には、日本全国の様々な住宅に住まわれている方を対象に、「近隣環境」「生活習慣」「現在の健康状態」「室内環境の感じ方」などを含む大規模アンケートを実施し、建材や設備の種類、間取りをはじめとした空気環境以外も含めた住環境条件がどう健康に影響をおよぼすのかをテーマとした調査を行っています。

空気環境配慮仕様の家 実証実験棟

健康住宅へのこだわりが新展開するWACoに期待

 寄附講座では千葉大学と1対1で研究を進めていますが、WACoの一員となることで他の参画企業と連携を図っていける機会も増えるでしょう。

 今後、WACo参画企業とも一緒に研究を進めるなかで、新たなノウハウやナレッジ獲得にも期待しています。これまでの当社にはなかった技術も組み込んで、新たな価値創造やブレイクスルーへとつなげていくなど、他メーカーとの協力体制には従来の業務では得られない大きな利点があるだろうと考えます。

 WACoはアカデミックなコンソーシアムであるだけに、健康に関する医学的なエビデンスを得やすく、環境性能に関連した具体的な目標なども得られるのではと期待しています。

 「自分たちはこんな性能を実現し、これを提供していけばいいんだ」という明確な目標が生まれ、今まで以上に健康住宅に対する取り組みにポジティブな空気が生まれていることを感じています。

漆原 慎

※部署・役職名は取材時のものです