株式会社 ジャパンヘルスケア
開発した「歩行可視化システム」を共同検証
2017年にスタートアップした(株)ジャパンヘルスケアは、代表取締役医師である岡部大地が千葉大学大学院で医学博士を取得した際に、近藤克則教授の下で学ばせていただいた経緯があり、現在は千葉大学の予防医学センターにて客員研究員をさせていただきながらWACoに参画しています。当社では、腰の痛みや肩こりなど筋肉や骨に関する「筋骨格系疾患」の予防に取り組んでいます。起業の際には、予防医学センターの花里真道准教授が共同研究中の竹中工務店様とつないでくださり、当社が開発した歩行可視化システムの共同実証を実施しました。
現在、要介護になる原因の約3分の1が筋骨格系疾患といわれ、その内容は、高齢による老衰と関節疾患、転倒骨折が主です。この筋骨格系疾患を予防することが、健康寿命の維持に最も寄与すると考えています。
筋骨格系疾患は、体のゆがみから起きるため、まず歩き方に着目しました。「歩行可視化システム」は、3Dデータから歩行を解析し、歩き方を可視化・点数化するとともに、AIがその人に合った歩き方を教えてくれるシステムです。歩き方が悪いと将来、筋骨格系疾患になりやすいことは分かっていますが、実際には自分の歩き方を把握していない人がほとんどです。
そこで、数歩歩くだけですぐに解析できる「歩行可視化システム」で、楽しみながら課題意識を持ってもらえたらと開発しました。納得して使っていただくためには、エビデンスに基づいて開発し世の中に届けていきたいという思いがありました。「歩行可視化システム」は竹中工務店様との共同実証により、歩き方の評価項目である「姿勢」「腕振り」「足運び」の3項目のうち、いずれかの項目で改善が見られるという仮説のもと研究を進めています。
そうした活動の中で、千葉大学からWACo参画へのお声がけをいただきました。千葉大学や他の企業様とも連携ができることに魅力を感じて参画したことで、予防医学という同じ方向に向かって、当社が提供するサービスの効果を示すことができるのは、非常に有意義なことだと感じています。
また、近藤教授は多くの産学官連携活動を実施されていることから、イオンモール幕張新都心様にて歩き方の健康診断イベントを開催した例もあります。こうしたつながりがもてる機会が増えたことも参画したことによる大きなポイントだと思います。 また、「歩行可視化システム」での実証実験を行いつつ、歩き方講座を開催しています。健康成果に向けての分析結果はこれからですが、こうした複合的な研究開発ができる場に参画できるのも魅力です。
2019年5月に実施された竹中工務店様とジャパンヘルスケアによる「歩き方が綺麗になる職場づくり」共同研究
実証実験しやすい環境
現在、私自身は足の専門医として週に一回診察していますが、一方で、世の中に価値のあるものを提供したいとも思っています。それを実現するには、医師ひとりが診療しながら取り組むよりも、ゼロ次予防※が本当に必要だとの志を持った者同士が研究開発し、プロダクトやサービスを提供していく方が社会的にインパクトを与えられるのではないかと思っています。そして、自分の役割としては筋骨格系疾患になる前に解決することの重要性を広めることだと感じています。
※個人への働きかけではなく、生活環境や社会環境を変化させることで健康に望ましい行動に変化させていく対策
今後の展開に向けた取り組みとして「足の健康診断」を行っています。たとえば、糖尿病は無症候のために健康診断をしていないと発見が遅れて、気づいたときには寿命が年単位で縮まってしまうことがあります。これは足も同じで、無症状のまま足のゆがみが起きていたりするため、そのゆがみを10年くらいほうっておくと、変形型関節症などに罹患し、健康寿命が短くなってしまうことがあります。「足の健康診断」は社会にとって非常に大切なことなのですが、世界的に実施されてはいません。それをぜひ普及したいと思っています。
「足の健康診断」の方法は、写真を撮るだけでその人の足の状態を把握することができます。イベント形式で専門家が対面で行う場合はその場で結果が出るので、それをもとにオリジナルのインソールを作り、靴の中に入れて毎日履くことで、努力なしに足の健康が維持できるというものです。
2024年度の介護予算は12兆円を超えています。しかし、「足の健康診断」がより一般化してインソールが普及すれば、要介護者は減り、大きな国民の負担も減らすことができると信じています。そのために、今後は「足の健康診断」のエビデンスをWACoで取得すればとも考えています。
実証実験のために人を集め、体制を作り、研究をして、データを解析する……というひとつひとつに大変な労力がかかります。WACoではそのような環境がそろった状況で実証ができるので、当社としてはメリットが大きいのです。WACoで参画企業と連携しブラッシュアップしつつ、自分たちが価値あると考えるものをつくって世の中に提供していきたいと思っています。
代表取締役医師
岡部 大地
※部署・役職名は取材時(2023/6/15)のものです