WACoを通じて健康コミュニティの複合価値共創をめざす

株式会社NTTドコモ

「通いの場」と社会保障費の関係を明らかに

 NTTドコモでは、高齢者を対象とした「通いの場」活動の効果検証を中心とした研究を千葉大学と共同で取り組んでいます。類を見ない速度で高齢化が進む日本社会において、拡大する社会保障費用をまかなうために税金や国の借金が増え続けていくことが社会問題となっています。このような社会環境のなかで公民館やレンタルスペースなど「通いの場」での健康維持活動が、どのように医療費や介護費といった社会保障費の抑制に影響するのかを検証する共同研究です。

 「通いの場」とは、高齢者の方々が地域の公民館やレンタルスペースを使って健康体操やサークル活動、カルチャースクールなどの健康維持活動を行う場のことです。社会とのつながりをもつとともに、認知機能低下の予防、運動機能の向上といったフレイル※予防につなげていくという、地域における介護予防の拠点となる場所です。

 当社では千葉大学との共同研究のもと、千葉市幕張エリアにて実証実験を行っており、ICT技術なども活用し、65歳以上の高齢者を対象とした健康データのサンプリングを担当しています。

 具体的には、サークル活動など健康習慣をもっている人には「通いの場への出欠データ」提供をお願いし、そうでない方には「ニーズ調査」を実施して、その集計分析から、各活動が社会保障費抑制にどのように効果を発揮するのか、検証していくことが本実験の目的です。

 また、この取り組みのなかで当社は、千葉市・千葉大学と連携体制を築いて実証実験を進めていくにあたり、安全かつ円滑なデータ共有のしくみの構築なども担っています。具体的には、個人情報を扱ううえでのフォーマットの統一や暗号化を図り、千葉市集計のデータと当社集計のデータを一気通貫で千葉大学に扱ってもらえるようなデータ連携のしくみを築くことに取り組んでいます。

 これと併行して、「スマホ×AI」を活用してフレイル予防へとつなげる当社のウォーキングアプリを地域住民の方々へ提供し、ICTサービスが社会保障費抑制にどうつながっていくかを明らかにするような実証実験なども併せて行っていく予定です。

 

複合価値創造というスタンスを武器に

 それに加えて当社では、「住むだけで健康になる家」というテーマの研究を行っており、これもWACo参画の大きなきっかけの一つとなっています。

 これは、当社が構築した宅内のIoT機器を通じて、居住者の日々の生活データを収集・解析し、解析結果をもとにIoT機器を通じて居住者に対して適切な空間を提供するスマートホームに住むことでデータ化された多くの生活ログを、さまざまに可視化して住む人に提供していくことで生活や行動変容を促し、健康へとつなげてもらう、というコンセプトの研究です。この研究を、「家」から「地域・まち」へと拡げていこうというビジョンを掲げています。そのような折、千葉大学予防医学センターの近藤教授と知り合ったことがきっかけで、WACo参画への打診をいただきました。

 当社が関わる「研究課題11 健康コミュニティの評価システムの構築」は、「暮らしているだけで、健康で活動的になるコミュニティ」という私たちがめざすビジョンと合致するものであり、WACoでの共同研究を通じ「住民同士がつながり、助け合い安心して楽しく暮らせるまちづくり」をめざしていけることは、きっと当社にとってもナレッジやノウハウ獲得という大きな財産となるであろうと考え、参画させていただくことにしました。

 WACoは産学連携による共創コンソーシアムということで、大きな研究フィールドで千葉大学と連携を図りながら研究ができることに価値を感じています。また、実証実験を進めていく中で導き出された結果や成果に対して、近藤教授をはじめとしたアカデミックなポジションにいる方々に学術的な評価を行っていただいたうえで、論文や学会・シンポジウムなどを通じて世の中に発信できるということは、一民間企業だけではなかなかできないことであり、この点においても参画の大きな意義を感じています。

 当社では、人々の生活がより豊かで便利になる価値検証を行う「ライフスタイル共創ラボ」という取り組みがあり、それを通じた「複合価値の創造」を行うことができる強みがあります。

 たとえば「健康になるためのサービス」を考える場合、従来は肉体面の健康だけにフォーカスしたサービス開発を行うことが常でしたが、これを「まち」のスケールに拡げると、人々が健康活動を行う公民館だけでなく、そこへ向かうためのバスや鉄道など公共交通機関との関係性も健康増進に重要な要素の一つと考えられます。またそこに、AIやICT活用を結びつけていくことでまちや地域にいくつもの健康価値を生み出すことができ、それが結果的に社会保障費抑制にもつながっていくことになります。

 このような複合価値的な発想を具体化できることが当社の強みなので、ぜひ、WACoという共創の場においてもそれを発揮して健康コミュニティの創造に取り組んでいきたいと考えています。

※部署・役職名は取材時のものです