株式会社富士通ゼネラル研究所
開発テーマは「健康」性能
富士通ゼネラル研究所ではエアコンの価値をさらに高める技術の研究開発に力を注いでいます。すべてのエアコンメーカーにとって省エネ性(経済性)は基本の課題ですが、さらに当社としては、エアコンに求められる本来の価値を「快適性・経済性の両立」と捉えています。つまり、単に温度を調節する機械でなく、「快適さ」を生み出すアイテムとしてエアコン本来の価値を追求したいというのが当社の目標です。
次なる上位価値として当社が着目しているのが「健康」です。それはWACoで追求してきた研究テーマでもあり、当社では以下の3つの観点で捉えています。
① 健康リスクの回避――おもに熱中症やヒートショックなど社会的課題の回避
② 健康維持――一般的にいう快適性の維持、不快や不調要因の除去
③ 健康向上――単なる快適性にとどまらず、意識しなくても自然に健康になれる住環境
この③については、たとえば暑さ、寒さへの反応が鈍くなってしまう「適応機能低下」を抑制したり、生理人類学の観点から、自然環境を再現することでリラックスを促したり、体調を整えたりする効果が期待できます。
こうした「快適性・経済性の両立」「健康価値」を実現するためには、エアコンメーカーだけではクリアできないさまざまな課題があるため、WACoで千葉大学の先生方の知見をいただくこと、また住宅メーカーなど他業界と連携することで新たな視点を得られることを期待したのが、参画の大きな理由です。
今後の取り組みにおいて、具体的には3つの課題が挙げられます。
1つ目が、現状の技術ではエアコンにおける省エネ性の追求が限界に近いことです。脱炭素社会の実現に向け、省エネ性を高めるために基幹部分の性能を追求してきましたが、すでにほぼ限界を迎えているのが現状です。
2つ目が、エアコンを設置する住宅環境の問題です。壁掛けエアコンは一般的に、窓のある壁の左右に設置されるケースが多く、その設置条件ゆえに「同じ室内でも温度ムラが大きくなる」「気流が直接あたって不快」などの問題が起こりがちです。
3つ目に、エアコンと住宅の関係における法整備の進展です。2025年に施行される「改正建築物省エネ法」によって住宅の高気密・高断熱化が進み、冷暖房に必要なエネルギーも大幅に減少していくと予測されます。つまり、住宅性能が上がることでエアコンも性能を発揮しやすくなるわけです。一家に4〜5台必要だったエアコンも、熱エネルギーとしては1〜2台で済むようになると考えられます。しかし、現行のエアコンをそのまま設置しただけでは満足のゆく住環境は得られないでしょう。進化する住宅性能に合わせて、それと一体となったエアコンの進化が必要になっていくと考えています。
研究者や他分野の参加者との交流が
研究開発のヒントに
以上のことから当社では、WACoにおいて次の5つの目的を設定して研究を進めています。
① 実際の住環境で、本来の価値(健康・快適・経済性)を評価する指標をつくる
② 健康・快適性を定性的、かつ定量的に評価できるようにする(脳波、自律神経など)
③ 実際の住環境を考慮した製品開発のアイディアを抽出する
④ エアコン単体ではなく、住宅と一体となった商品性を検討する
⑤ 他業界のさまざまな企業や研究者とコラボレーションし、技術革新を図る
この①、②については、積水ハウス様の協力をいただき、千葉大学柏の葉キャンパス内のモデルハウスで、住環境における実証実験を実施しました。また健康・快適性を測る指標をつくり、さらに健康への影響についても、脳波解析などに基づく定量評価も行っています。これまでは部屋ごとの評価を行ってきたのですが、将来的には住宅全体を対象にしていきたいと考えています。
日本ではオフィスビルを対象とした「CASBEE-ウェルネスオフィス評価認証」が存在しますが、住宅を対象とした健康評価認証はありません。じつはこの一般住宅の基準づくりというのは、WACoの参画企業募集でお声がけいただいた、千葉大学大学院工学研究院の林立也准教授の研究分野でもあります。そして、実際の計測や分析方法、研究者としてのノウハウや知見をいただいたことが、今回のコンソーシアム参加の大きな成果になったと考えています。
③は当社のメインテーマになります。コンソーシアムでの取り組みを踏まえて現在は新しい空調方式を取り入れた試作品をいくつか製作して検討しており、今後も研究を進めていきたいと考えています。また④、⑤については、積水ハウス様の住宅モデルを活用できたことが成果ですが、コロナ禍の影響もあり、とくに他業界の企業との活発な意見交換は難しかったのが心残りです。今後進展してくものと期待しています。
今回のWACoでの取り組みにおいて得られた成果をまとめると、やはり大きかったのが、千葉大学の先生方を始めとする、専門の研究者の知見やノウハウをいただき、皆さんとのつながりを形成できたことです。さらに、ほぼリモートではありましたが、定期的に開催されていた共創研究会やさまざまなディスカッションの場も設けていただきました。このように多分野の研究や意見に触れて、さまざまな刺激やヒントを得たことが、当社の今後の研究開発に大いに寄与していくものと考えています。
富士通ゼネラル研究所
高島 伸成
富士通ゼネラル研究所
佐々木 謙
※部署・役職名は取材時(2023/6/13)のものです